東京都台東区|入谷キッチン&バル|“あれ”がないけど本場では当たり前!? 宮崎県出身の店主が作る元祖とも言うべきチキン南蛮

 

チキン南蛮の始まりは延岡市の『ロンドン』

宮崎県出身の店主が営む『入谷キッチン&バル』
宮崎県出身の店主が営む『入谷キッチン&バル』

お弁当でも定食でも大人気のチキン南蛮。たっぷりかけられたタルタルソースの鮮やかな色彩と甘酢の酸味が視覚・嗅覚を刺激して、味覚が騒ぎ出すのを抑えられなくなる魅惑の食べ物。居酒屋のメニューにも登場しており、おつまみとしても揺るぎない地位を確保しています。もはや国民食のひとつと言っても過言ではないでしょう。
チキン南蛮人気の高まりとともに、その発祥の地が宮崎県延岡市であることも知られるようになりました。昭和30年代ごろ、延岡市内にあった洋食店『ロンドン』のまかない料理がそのルーツであると言われています。当時この『ロンドン』で働いていたふたりの料理人がそれぞれ独立し、チキン南蛮をメニュー化したのが、今日私たちが愛してやまないチキン南蛮の歴史的スタートの瞬間です。

さてそのふたりの料理人が始めたお店は今でも営業しており、ひとつはレストランチェーンの『おぐら』(本店は宮崎市)。もうひとつは定食屋の『直ちゃん』(延岡市)。それぞれに特徴があり、『おぐら』は揚げたムネ肉を甘酢にくぐらせてタルタルソースをかけて食べるスタイル。私たちがもっともよく目にするタイプです。一方の『直ちゃん』は揚げたムネ肉を甘酢にくぐらせて食べるもの。そう、タルタルソースがないのです。チキン南蛮というとタルタルソースをすぐに思い浮かべますが、発祥の地では“タルタルソースなし”はむしろ一般的。

タルタルソースなしのチキン南蛮とは?

「元祖延岡チキン南蛮定食・むね肉大」(1,000円)。レギュラーサイズ(800円)もあります
「元祖延岡チキン南蛮定食・むね肉大」(1,000円)。レギュラーサイズ(800円)もあります

このように、チキン南蛮の発祥には2系統あることがわかります。今回ご紹介するのは宮崎県出身の竹本寛さんが営む『入谷キッチン&バル』。『直ちゃん』のチキン南蛮に魅せられた竹本さんがその味を再現した「元祖延岡チキン南蛮定食・むね肉大」(1,000円)をいただきました。

油に入れたあとに溶き卵をふりかけており、これが甘酢をなじみやすくさせます
油に入れたあとに溶き卵をふりかけており、これが甘酢をなじみやすくさせます

オーダーから5~6分ほどで登場したチキン南蛮、たしかにタルタルソースなし、です。しかし甘酢のいい香りがふんわり。この香りで十分です。衣が見慣れない形状に仕上がっており、一瞬「揚げたカツオ節…?」と思ってしまいますが「ムネ肉に小麦粉をまぶして溶き卵にくぐらせてから揚げていきます。油に入れたあとに、そこにさらに溶き卵をふりかけるんです」と竹本さん。なるほど、衣のこの形状は揚げているときに投入する溶き卵でしたか。カツオ節とは失礼いたしました(汗)。これは『直ちゃん』流のやり方だそうで、甘酢がよりなじみやすくなるといいます。

もうタルタルソースはいらない?甘酢の美味しさに感服!

けっこう肉厚!甘酢の香りと風味で食欲に火が付きます!
けっこう肉厚!甘酢の香りと風味で食欲に火が付きます!

ではいただきましょう。けっこう肉厚ですね。たしかに甘酢がよくなじんでおり、衣はしっとり。そして肉もしっとりとした歯ざわりで、ムネ肉とは思えないやわらかさ。そのため衣と肉の一体感は絶妙です。肉の旨みと甘酢がふくよかな優しい風味を演出しています。
甘酢は濃厚でかすかな香ばしさもあり、飲み込む瞬間にのどから鼻にかけてその風味が一気に炸裂します。甘酢の酸味がのどをキレイにしてくれるような感覚まであって、完全に飲み込んだあとの爽やかさが何とも言えません。これはもう禁断の風味、食欲に火が付き、すぐに次の一切れを求めてしまいます。

モモ肉と使ったものやタルタルソースありのチキン南蛮もあります
モモ肉と使ったものやタルタルソースありのチキン南蛮もあります

こんなにやわらかいムネ肉は珍しいのですが、竹本さんによると下処理の段階でしっかり叩いているとのこと。また甘酢も複数の調味料やスパイス、野菜などを使って作っているそうで、深みとコクのある味わいになっています。これならばタルタルソースはなくても大丈夫。むしろ甘酢の存在感とキャパシティーの大きさを知ることができました。
ところでこちらのお店では、モモ肉を使ったチキン南蛮やタルタルソースありのものも味わえます。「タルタルソースが好きなんだ!」という人でも安心ですよ!

(取材年月日:2022年3月11日)

宮崎県出身の店主が営む『入谷キッチン&バル』

閉店|入谷キッチン&バル

[住所]東京都台東区入谷1-23-2
[電話番号]03-6802-4535

店舗情報 WEBサイト

松本 壮平

ライター・編集者。一般社団法人日本唐揚協会認定カラアゲニスト。生まれも育ちも「からあげの聖地」大分県中津市。年間のからあげ摂取量は300食以上。『食楽web』(徳間書店)、『bizSPA!フレッシュ』(扶桑社)などでからあげの取材記事を担当する。