東京都新宿区|神楽坂 斉唐|神楽坂に新名物登場!高級感あふれる「おもたせ」の唐揚げとは?
高級和菓子を想起させるスタイルの唐揚げを提供する「斉唐」
東京・神楽坂界隈は、江戸時代は武家屋敷や寺院などが集まるエリアとして、明治期以降は花街として発展してきました。現在でも高級料亭や呉服店など、花街として栄えた時代の面影が感じられる一方で、おしゃれなカフェやレストランが多いのも神楽坂の特徴。伝統的な色合いとモダンでスタイリッシュな空気が共存する、落ち着いた大人の街という印象があります。
そんな神楽坂の”新名物”とも言える唐揚げを発見しました。JR飯田橋駅西口を出て、神楽坂下交差点から勾配のやや急な神楽坂をのぼり、脇の小道を入ったところにある『神楽坂 斉唐』。今年5月にオープンしたばかりの唐揚げ専門店です。ご紹介するのは「から揚げのおもたせ」(9個・2,000円)。味の異なる9種類の唐揚げが、高級和菓子を想起させるスタイルで提供されます。
「いまも伝統的な風土が残る神楽坂で、新しい唐揚げ文化を創り出したかった」と話す店主の斉藤利江さん。もともと自宅でお子さんのために作っていたものが、こちらの唐揚げのベースになっているそうです。また斉藤さんはかつては高齢者施設などの献立やレシピを考案する仕事にも携わったことがあり「高齢者の皆さんも本当に唐揚げが大好きで。歯がない人でも唐揚げを出すと夢中で食べようとする姿を見たこともあるんです」。そんな、世代に関係なく愛される唐揚げを、神楽坂の雰囲気に合ったものにしたいと斉藤さんが考え出したのがこの「から揚げのおもたせ」でした。
「から揚げのおもたせ」を見てみる
熨斗がかけられ、高級感漂う「から揚げのおもたせ」。ふたを開けると升状に仕切られた箱の中に9個の唐揚げがお行儀よく並んでいます。ぴり辛・醤油・名古屋風・ゴルゴンゾーラ・エスニック・トマトコチュジャン・南蛮・バッファロー風・柚子胡椒の9種類の味。これだけあれば、好みの唐揚げが必ず見つかりそうですね。
スタンダードな「醤油」は万人受けしそうな正統派の美味しさ。「南蛮」はタルタルソースがかけられ、ちょっと甘さもあり、子どもが喜びそうな味です。「ゴルゴンゾーラ」はチーズの風味が際立つイタリアンテイスト。
他の6個はピリ辛系の唐揚げです。まさに“大人の味”と言ったところでしょう。「名古屋風」は黒胡椒の、そして「柚子胡椒」は大分産柚子胡椒の上品な辛さが利いた味わいです。「ぴり辛」は和風のやさしい辛さ。東南アジアの香辛料を使用した「エスニック」はカレーのようなスパイシー感があります。「トマトコチュジャン」は刺激がやや強く、酸味の爽やかさがある一方で額に汗がにじんでくるほど辛さ。そして「バッファロー風」がとくに私が辛いと感じたもので、舌に電流が走るようなビリッとした強い刺激があります。しかしどれもこれもお酒には合いそう。友人宅での飲み会などに持って行くと喜ばれそうです。
彩り豊かで目で楽しめるだけでなく「これ美味しそう!」「これはどんな味かな?」「私はこれがいい!」などと食べる前から盛り上がりそうですね。美味しさだけでなく話題も提供してくれる新感覚の唐揚げと言えそうです。
ところで「おもたせ」とは
ところで“おもたせ”とは来客が持ってきた手土産を、その来客に敬意を込めて表現する言葉。「おもたせで恐縮ですが…」と言って、いただいた手土産をその場でお茶請けに出すことは、日常的によくあることですね。花柳界では古くから訪問先に手土産を持参する習慣があり、相手を喜ばせるための気の利いたお菓子などは重宝されたようです。この「から揚げのおもたせ」がそのひとつとして認識されるようになる日は近いかもしれません。
さて私の故郷・大分中津は“からあげの聖地”と呼ばれており、精肉店や惣菜店などで唐揚げを購入して自宅で食べる習慣が古くから根付いています。小学生のころ、友達の家で遊んでいるとそこのお母さんが「唐揚げ買ってきたよ~!みんなお食べ~!」と言って口の開いた大きな袋に詰められた大量の唐揚げをドンとテーブルの上に置く。そんな光景もよくありました。するとゲームをしていようがプラモデルを作っていようがそんなものは放り出して、みんなで唐揚げに群がり、奪い合うようにして食べたものです。
「から揚げのおもたせ」の高級感ある大人の雰囲気を見るにつけ、自分の少年時代の唐揚げ喫食時の”がさつ”さが思い出され、なんだか正反対だなあ、とも思ってしまいます。その意味でも、このおもたせが唐揚げに新たな文化を注入してくれるのではないかという期待も膨らんでいくのでした。
(取材年月日:2022年7月22日)
松本 壮平
ライター・編集者。一般社団法人日本唐揚協会認定カラアゲニスト。生まれも育ちも「からあげの聖地」大分県中津市。年間のからあげ摂取量は300食以上。『食楽web』(徳間書店)、『bizSPA!フレッシュ』(扶桑社)などでからあげの取材記事を担当する。